2011.08.29
今日は日本の新しいリーダーが生まれた日。ここ5年で6人目となり特に目新しさもないかもしれないが、節目の時なので敢えて少し大きなテーマで。先週金曜日の深夜にTV放映された討論番組で「なぜ日本からは時価総額世界1位になった米アップルのようなIT企業が出てこないのか」といった司会者の投げかけに対して具体的な回答がなかったので、敢えて私の考察を共有したい。
1. IT産業における今日の主戦場
[ 技術志向型開発の凋落 ]日本のIT産業が世界をリードできないひとつの理由は、「テクノロジー競争」がもはや主戦場ではなくなったマーケットの変化にキャッチアップしていないという事実。この点においては日本企業のみならずMircosoft社の覇権が揺らぎつつある要因の一つにもなっているが、「
ソニーの苦悩は日本の苦悩」というブログにも書かれている通り「日本企業が優位性をもっていた技術改良の志向が通用しなくなった」ことが主な原因であり、「商品の良しあしは、どういうインターフェースで、デザインよくまとめられるかで決まるようになりました。成功したのはアップルです。」(
日本経済新聞経営者ブログより抜粋)という一言が全てを説明している。
[ ユーザーインターフェース重視のトレンド ]では優れたユーザーインターフェースとは何か。色々な視点があるかと思うが、「疲れやストレスをなるべく感じずに人間が機械を扱える」ことを前提とし、「万人が所有する喜びを持てるクールなデザイン」を有するプロダクトと表現できる。私は5年前までアップルの商品を一切手にすることはなかったが、iPodに始まりiPhone、MacBookなど今となっては数十万円以上の商品を無意識のうちに購入している。恐らく、家電マニアではない自分には「マニュアルを読まないと操作できない高機能なデジタル商品」が不向きで、説明書なしに使いこなせるクールなプロダクトに惹かれたということだと思う。ちなみに、趣味の世界を中心として「複雑な操作そのものが楽しい」デジタル一眼カメラのマーケットでは、技術改良を志向する日本ブランドが今でも世界をリードしている。同じデジタル機器の世界でも消費者のニーズがこうも違ってきていることに、そろそろ我々も気づくべきだ。
[ プロダクトアウトの復権 ] 一方、最近注目しているのは、以前は悪しき開発手法として評されてきた「プロダクトアウト」が復権しつつあるという点。プロダクトアウトとは「企業側の都合(論理や思想、感性・思い入れ、技術など)を優先する」やり方で「作ってから売り方を考える方法」といわれている(
IT情報マネジメントより抜粋)。私が知る限り、今までのアップルの商品の多くはスティーブ・ジョブスの思いが具現化したものであり、「必ずしも自分が欲しいモノを明確に知っているわけではない消費者」に向けて圧倒的なプレゼンテーションで新しい価値観を提案する、まさにプロダクトアウトのアプローチを採用していた。全ての業種には当てはまらないかもしれないが、
かつて盛田さんがウォークマンを世に放ったように経営者の思いがつまった商品やサービスをクールなプレゼンテーションで世界にどんどん発信していく日本企業の出現を期待したい。
2. 新たなITサービス・商品が育ちにくい環境
[ リスクマネー不足 ]「
震災で個人マネーさらに停滞 普通預金200兆円に迫る」(日本経済新聞Web刊)。この記事は先行きの所得や雇用の不安から日本国民が手元の資金を厚くする動きが出ていることを端的に紹介した記事だが、新しいサービスや商品の開発に挑戦してゆきたいベンチャー起業家たちにとっては頭の痛いトレンドである。この流れが続く限り、たとえ日銀が量的緩和を実行してもお金は銀行を経由して国債などにしか向かわず、政官財を通じて低成長・低収益分野にしかお金は回らない。一方、海外はどうか? 例えば、
経常収支と財政難の「双子の赤字」に苦しむ米国であっても、日本と比べれば圧倒的に大量なリスクマネーがITを中心とした成長分野に投資されており、シリコンバレーは世界から優秀な人材を集め続けている。日本の起業家は失敗したら連帯保証などの債務に縛られて容易には再出発できないのに対し、米国では起業の「失敗も貴重なキャリアのひとつ」として評価され新たなベンチャーに挑戦できる。この通り、新たな人材とITサービス・商品が育つ環境の差は歴然としている。
[ スピード感の欠如 ]私は日系企業と米国系外資企業の双方で勤務した経験があるが、個々の業界での違いはあれど共通して実感した大きな差はその「スピード感」だった。日本でのビジネスにおいては営業のアポ取りから社内の決裁までひとつの商談をまとめるためにあまりにも多くのリソース(人・モノ・金)を要するのに対し、外資系の企業では多くのプロセスが簡略化され、また各人に権限が委譲されていた。例えば、日系企業では10人もの人間が集まって会議をしても「調整」が中心で何事も決断されないことが多いのに対し、外資系企業では「この1時間で〇〇を決定する」といった具合で会議の目的を明確にしないと主催者は打ち合わせすらスタートできないという合理的なルールと文化がそこにあった。日本の「和の精神」や「決断を先送りにする傾向」は、スピードが肝要なITの世界では命取りになる。これは大企業に限った話ではなく、我々のようなベンチャー企業の面々も肝に命ずべき点だと考える。
[ 複雑怪奇な法制度 ]前述の通り、スピードが命の新たなITサービスや商品の開発はベンチャー企業の得意とするところだ。例えば米国発のFacebookやTwitterの始まりがそうだったように、優秀なエンジニアと起業家が数名集まれば世界のメディアを変えるようなプラットフォームの礎を築くことができる世の中になったわけだが、そういった新たな流れを阻止するような法制度がこの国には沢山存在している。
例えば企業運営ひとつをとっても、決算における税務処理や社員福利厚生のおける社会保険制度など、ちょっとした企業活動を始めるためにも大企業並みにエキスパートの手助けを借りねばならず、また縦割り行政の弊害なのか多くの役所に(場合によっては代表取締役自身が)足しげく通う必要がある。また各種規制では、例えば個人情報保護法があるが、(消費者にとっては安心・安全な法規制かもしれないが)Pマークのお墨付きがなければソーシャルネットワークを運営しにくいマーケットでは、世界をリードする新たなソーシャル系サービスを開発・運営してゆくのはとても難しい。このように様々な分野で存在する法律や規制が結果として新たに興るベンチャーの成長を阻害する一方、資本力に勝る大企業に見えないかたちのアドバンテージを与えているという事実に、政治家の人たちにもそろそろ着目してもらいたい。
今日は新しいリーダーが生まれた日。
日本で新たな産業が芽生えはじめるような環境の整備に、是非本気で着手して欲しい。さもなくば、産業の空洞化はおろか、この国には次世代産業が生まれない/育たないという恐ろしい未来が待っているような気がしてならない。
日本のIT産業が世界をリードできない理由(後編)3. 特異な日本市場を攻略
[ マスメディア中心の情報伝達 ]
[ 消費者過保護の弊害]
[ 慎重な消費者心理 ]
4. これから始まる国内IT企業の海外進出
[ 戦いはこれから ]
[ 真のグローバル人材 ]
[ 当社Orinocoの覚悟 ]
2011.08.09
【コマース第2世代の始まり】2000年から2010年まではAmazon、楽天といったなど品揃えを売りにしていたEコマースが躍進した第1世代の時代。そして、既に始まっている第2世代では、更なるデジタル化とリアル連動型がへ2極化してゆくことが予想される。例えば、デジタル化のひとつとしてはAmazonが主力商品とする本の世界でも返本や配送のないデジタルのマーケットが急速に拡大していて、ついに米国のAmazon.comでは
Kindleの電子書籍の販売冊数が紙媒体の書籍全体の総数を超えるにまで至っている。
では一方、リアル連動型Eコマースとはどういったものがあるだろうか。まだ時代の始まりでしかないので今後も様々なビジネスモデルが誕生すると思うが、現時点でメジャーになりつつあるジャンルを紹介したい。
【リアル連動型のEコマース】
<アパレル系コマース>
一見、本などのオンラインショッピングと同じサービスで展開しているように見えるアパレル系のEコマースも、例えばAmazonが手がける
Javariなどのように返品無料のサービスを提供することで「試し履きをしてから購入」といったリアルなショッピング体験を実現し「WEBでアパレル系は売れない」といったひと昔前の通説を覆しつつある。
<クーポン共同購入>
みんなで買うと安くなるといったコンセプトで、主にグルメや美容・健康といった体験型コンテンツのお得なクーポンを提供する共同購入系コマースは昨年末からの各社プロモーション効果も手伝って規模を急激に拡大している。これらは見方をかえれば従来からリアルの世界で配布されていたクーポンを時間制限・個数制限つきで販売するEコマースで、クーポンを手に入れた後の予約を含む店舗体験そのものが商品。
いずれのケースも商品の配達完了でひと段落でななく、リアルな顧客体験がショッピングの成功・不成功を大きく左右する世界。リアルの世界でお客様に「感動」を与えることができなければ、「靴の購入」や「店舗リピーターの獲得」といったビジネスの目的が達成できないのがリアル連動型の大きな特徴となっている。
これから拡大が期待されるリアル連動コマースは何か?
それは、ブランドも知名度もないアーティストがライブ公演で「感動」を与えることでお客様を増やしていく連鎖を醸成するような「
イベントコマース」であると私は考える。
今ではすっかりメジャーになったAKB48もマスメディアを通した集客ではなく、専用劇場でほぼ毎日公演を行ってその成長していく過程をファンに見てもらい現在に至る。まさにファンが感動し、ファンがファンを呼ぶことで成功したプロジェクトだった。ライブで体験しないと醍醐味を味わえないような公演こそが究極のリアル連動コマースのコンテンツであり、その拡大を支援する仕組みがこれからの「
イベントコマース」に求められている。
私も自社の手がけるコマースで経験してきたが、YoutubeやMy Spaceでコンテンツを配信するプロモーション活動だけではやはり本物のファンをつかめない。ネットの役割はあくまでもきっかけ作りであって、勝負はリアルの世界で感動を与えること。とはいえ私の役割はあくまでもコマースを通じて成功の連鎖をお手伝いする、いわば「プロデューサーのための縁の下の力持ち」であると認識している。
<イベントコマースにおけるネットの役割期待>
1. アーティストによるソーシャルメディア(Facebook、Twitterなど)によるファンとの親密度向上を促進する。
2. 公演情報がソーシャルメディアを通じて伝播する仕組みを広げ、公演の成功に寄与する。
3. 公演チケット購入時のお客様負担(発券・支払い手数料など)を限りなくゼロにする。
4. 新たなファンを呼びやすくするための工夫(ペアチケットなど)の導入を広める。
5. コアファンがより感動できるサービス(バックステージパスや打ち上げ参加付きチケットなど)の導入を広める。
今後はこれらの成功事例をひとつでも多く実現し紹介してゆくことで、一人でも多くのアーティストが自活でき創造活動に注力できる環境作りに身を投じてゆきたく思う。